迷走女に激辛プロポーズ
穴の開くほど彼を見つめる。
想い人の代わりに……? 悲しみを埋めるために……?

ゴクゴクとビールを飲む喉仏が上下する。
本当にこの男は綺麗だ。

遥香の言葉を、また思い出す。
佑都とのキスを想像してみる……嫌じゃない。

クスッと笑いが出る。
佑都が怪訝な顔をする。

「展開が早いんだけど」
「また、知恵熱が出るか?」

佑都の腕がソッと私の肩を抱く。途端に体の全てが温かくなる。

「このマンション、爺様が生前分与にってくれたんだ」

よく聞くと一部屋ではなく一棟丸ごとらしい。そして、いま居る場所は所有者の特権で、ペントハウスだと言う。

「ずっと広過ぎて落ち着かなかったけど、お前が来てからこの場所が凄く居心地良くなった」

肩を抱く手に力が入る。

「ここ好条件だぞ。まず、会社に近いから遅くまで寝ていられる。次に、家賃はタダ。今まで出していた分、貯金できるぞ」

食費に加え家賃も貯蓄に回せる……というわけか。
そう言えば、賃貸契約の更新手続きのハガキが来ていたなぁ、と思い出す。

「お前には迎賓館並みの特別室を貸して……」
「いいねっ! 乗った」

みなまで聞かず、私は明るく返事をする。
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