迷走女に激辛プロポーズ
「ううん、気にしないで、私もお休み中の書類、早く仕上げなきゃだから」

二人並んで、社員食堂入り口奥にあるエレベーターホールに向かう。

「そう言えば、白鳥課長のお姿が見えませんが?」

まるでワンペアの片方はどこへ行った、というような言い方だ。

「ああ、フランス大使館に朝イチから出掛けてる」
「そうなのですね。私、楓様の身を案じておりまして、守護霊が見えないとついつい気になってしまって」

守護霊? 娘! お主は霊能力者でも有るのか、とツッコミそうになり、イヤイヤ、これは佑都を比喩したものだ、と思い直し、いつから奴は守護霊になったのだ、と首を傾げる。

流石にあっち系宇宙人。毎度毎度謎を残してくれる、と妙な感心をしていると遥香がエレベーターホールを指差し、嬉しそうに言う。

「ラッキーですね。珍しく空いてます」

エレベーターホールは東西二か所に有り、ホール毎にエレベーターは四基。その内、東エレベーターホールの一基が重役フロアー専用となっている。七基のエレベーターがフル回転しても、朝と昼は満員電車並みに混雑する。

「そうだね。ランチタイム終了までかなり時間があるからね」

話しているとチンと音がしドアが開く。乗り込んだのは私たちを含め六人。その人たちと下へと向かう。

「それじゃあ」と十二階で遥香が下りると、意外にもエレベーター内は私と……知っているような知らないような、会ったことが有るような無いような、何ともハッキリしない老紳士と二人になった。
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