迷走女に激辛プロポーズ
それにしても……と、そんな猛反省を後にするとは思わない私は、呑気に老紳士を思い返し、年を取るならあんな風に素敵に取りたいものだ、と考えていた。

老紳士はとても上手な日本語を話していたが、異国の人だと直ぐに分かった。

美しいシルバーの髪、上品な口髭。相当なお年なのだろうが、ピンと伸びた姿勢や声の張りはとても若々しくダンディーだった。そして、何より顔に刻まれた皺が、美しく年を重ねた人生の証に見えた。

それに、多分だが、悪い人ではない。
シルバーフレーム奥の瞳は、とても澄んでいて温かだった。

でも、本当に誰だったのだろう? 何処かで見たことあるような……こうも有耶無耶だと気持ちが悪い。腕を組み、考えを巡らせながら海外事業部に戻ると……。

「何を唸っているのだ?」

突然、頭上から声が降ってきた。
ギャッと声を上げ、上を見ると……佑都だ。帰社したところみたいだ。鞄を持っている。

たちまち異国の男性は露と消える。

「あっ、お帰りなさい」
「ただいま」

何気ないいつもの会話……なのに照れる。
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