迷走女に激辛プロポーズ
そして、今、私は唖然呆然で目の前にいる人を見つめながら、深く反省していた。自分の浅慮を……。

「昨日は突然声を掛け、失礼したね」

異国の老紳士だった。佑都が電話で話をしていた相手は彼だった。

「やっぱり……」と佑都が溜息を吐く。

「楓の話を聞いて、もしかしたらと思っていたけど、もしかだった。楓、この人がマンションくれた爺様。父方の祖父に当たる人。そして、この子が俺の恋人、大野木楓さん」

食べ物に釣られ恋人という名のお付き合いをさせて頂いております、とは言えず曖昧に微笑む。

「イーサン・ミラーです。よろしく、楓」

イーサンは私を抱き寄せると、軽く頬にキスをする。挨拶の仕方も実にスマートだ。ということは佑都はクォーターになるのか、どうりで日本人離れした容姿のはずだ。

「こちらこそ、先日は失礼致しました。大野木楓です。宜しくお願いします」

私も慌てて挨拶をする。

「爺様、予約を入れてあるのでは? 行きましょうか」

いつになく丁寧な話しぶりの佑都。

「ああ、そうだね」

イーサンの後に続くと、ホテル最上階にある老舗“三つ巴”に入る。あの豪華三段重の支店だ。

引き寄せの法則よ、ありがとう。願っていたのよ、いつか必ず“三つ巴”で食事をするって。私は踊りだしそうな自分を必死に抑え、湧き上がる喜びでニヤケそうになるのを奥歯を噛み締め我慢する。

しかし、抑え切れていなかったようだ。佑都とイーサンが私を盗み見しながら含む笑いをしていた。
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