迷走女に激辛プロポーズ
「ようこそいらっしゃいました」

店の入り口で総支配人らしい男性が深々とお辞儀をする。

「お久し振りですイーサン・ミラー様」
「お世話になるよ、巴さん」

巴さんと呼ばれた男性に案内され、ライトアップされた竹林の小道を奥に進む。
ここホテルの中よね?
一瞬、京都嵯峨野に広がる竹林の道と勘違いする。

その道を進むと、最奥だろう所に茶室のような侘・寂漂う、味わいのある個室が現れる。

「いらっしゃいませ」

部屋の前で、着物を上品に着こなした年配女性が丁寧に頭を下げる。

「おぉぉ、光江さん、元気そうだね」イーサンが嬉しそうに言う。

「殿もお変わりなく何よりです」

殿? イーサンは殿様?

「お仕度は整っております。どうぞ中へ」

促され入ると伽羅の香りが微かにする。
香木でも置いてあるのだろうか、ホッとする香りだと思いながら佑都に続き奥に進む。

どうやら、次の間付きの部屋らしい。控えの間を抜け主要な部屋に入る。立派な床の間と十二畳の畳の間、中央には一枚板の座敷机がデンと鎮座していた。

特に目を惹いたのが正面奥に見えるライトアップされた和庭園だ。幻想的なその様は、ここは極楽かしら、と思うほど美しかった。
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