迷走女に激辛プロポーズ
呆然自失だった私も時間が経ち、美味な料理に舌鼓を打つうち、すっかり復活し、いつもの調子が戻っていた。

和食の店といっても、海外のお客様が多いホテルにある店。座敷机は掘りごたつ式になっていて、正座が苦手な私も足の痺れを気にすることなく長時間座っていられた。

イーサンは話し上手で聞き上手で、どの話題も面白くて、声を立てて笑った。特に彼と彼の妻雪乃さんの馴れ初めは最高だった。

「素敵! イギリス人のイーサンが、日本人の雪乃さんを許嫁から奪略して、家を捨て二人でアメリカに逃亡って、世紀の大ラブラブロマンスじゃないですか!」

ちなみにだが、巴さんは巴成之助と言って“三つ巴”の社長。光江さんは彼の奥さんで“三つ巴”の女将だった。

「そうなんだよ、楓。僕は彼女の泣き顔に二度惚れしてね……」
「泣き顔?」

イーサンは、日本に留学しているとき、友人を介して雪乃さんと出会ったらしい。

「あの時代は親に逆らえず、結婚を目前に、雪乃が庭でさめざめと泣いていたんだよ、許嫁とキスできない、絶対したくないと」

ん? どこかで聞いた話だぞ。
< 95 / 249 >

この作品をシェア

pagetop