迷走女に激辛プロポーズ
「俺はもっとしたい」

彼の手が私の背中に回り、もう片方の手が顎から頬に移動する、そして、再び口づける。唇の上で唇が踊るように軽やかに何度も。

「本当はこんなのじゃ満足できないけど……」

やっと唇を離すと、佑都は両手で私をきつく抱き締め呟く。

「けど、ちょっとだけ奪還できた」

ん? 奪還? 何から何を?
私の疑問などお構いなしに、いつもの佑都が言う。

「明日、荷物の選別をしたらここを出る。お前も一緒にだ。この部屋にはもう戻らない。そのつもりで準備しろ」

戻らないって……なんたる強引。

「あっ、風呂お先、お前も行ってこい」

ビールを奪うと鼻歌交じりに洋室に入り、定位置に座るとテレビをつける。そして、美味しそうに喉を鳴らし始める。

数秒後、置いてきぼりにされた意識が戻ってくる。
オイオイ、ちょっと待て!

私は目の前にいる太々しい狼に向かって声にならない声で呟く。
さっきまでいた借りてきた猫は何処へ行ったのだ、と……。
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