あなたとホワイトウェディングを夢みて
食事を終えた郁未は食器を片付けることなく帰り支度を始める。
「忘れ物はないですか? それに車の運転は大丈夫ですか?」
「車? いや、ここまでタクシーで来たから……」
考えてみれば昨夜はホテルまで自分の車を運転して行った。なのに、それすらも忘れタクシーに乗ったのは体調不良から思考回路が鈍ったのか、郁未はまだ少し身体の怠さを感じる。
「今日、仕事休んだ方が良くありません?」
「大丈夫だ。君に介抱して貰えて随分楽になったから。……まあ、下着姿だったのは驚いたが」
「それは汗ばんで苦しそうにしていたからです。それにスーツがシワになるので」
留美が郁未の体調を心配しているのに、郁未に茶化された感じを受け急に腹立たしくなる。たとえ嫌いな相手でも、病人相手に意地悪や悪戯はしない。両親からの教えを守ってきたし、そう有るべきだと留美は自分でも感じている。
少し不機嫌な顔で玄関まで郁未を見送ると『気を付けてお帰り下さい』と皮肉っぽい言葉を放つ。
口を尖らせる留美が可愛く見えた郁未は、玄関土間に降り靴を履くと留美の首に腕を回した。
「世話になった。ありがとう」
首筋に触れる大きな手。男性らしい骨ばった指にドキッとすると、会社では見せたことのない優しい瞳を向けられ、留美の心臓がキュンと弾む。
そして、頭部に滑らせた手に郁未の方へと引き寄せられ、二人の顔が重なる。
甘い唇から『留美』と囁かれる。
静まり返る玄関内に、何度も重なる唇の音が響く。
何度も啄まれ、柔らかな唇が愛しくて離し難いと思ってしまう。