あなたとホワイトウェディングを夢みて
「留美」
身悶えするような郁未のセクシーな声。頭の芯まで痺れて何も考えられない。
触れる唇だけでは物足りなくて、郁未の絡む舌を欲する自分に驚きながらも、郁未に抱きつき淫らなキスを返していた。
名残惜しいと感じながらも、郁未は留美にタクシーを呼び出して貰い帰って行った。
郁未が帰宅した後、食器を片付けながら留美はふと思った。
(専務はいったい何の用があって来たのかしら?)
郁未の謎めいた行動に留美は頭を傾げる。
しかし、洗い物をする留美の頬はかなり薔薇色に染まっていた。
「だって、窮屈そうだったし、寝苦しそうだったから」
昨夜、郁未のスーツを脱がせていた時の事を思い出していた。一つしかない布団に二人一緒に寝た自分の度胸に、今になって脚が震えそうになる。
何も知らない郁未には絶対に口が裂けても言えないと、留美は昨夜一晩眠れなかった自分に戸惑う。
――そして、いつも通り出勤した二人。
会社の専務室のデスクを挟んで向き合う二人は、いつも通りの敵対する姿勢を崩さない。
腕を組み偉そうにデスクに座る郁未に対し、データを保存したメディアを突きつける留美。
「こちらのデータをご使用下さい」
「ああ、後から確認する」
「何か不都合ありましたらご連絡下さい」
会釈をした留美が部屋を出ようとすると、郁未に呼び止められる。
「何か?」
「今夜、会えないか?」
郁未の顔を暫く見つめた留美だが何も言わずに部屋から出て行った。