あなたとホワイトウェディングを夢みて
『社長なら社長らしい電話をかけてみろ!』と、怒鳴りたいがここはグッと堪えて仕事モードで応える。
『専務室です。おはようございます。何かご用でしょうか?」
「……つまらん人生送っているな」
「あなただけには言われたくないですが」
仕事もプライベートも、現時点では文句無しの充実した日々を送っている郁未には俊夫のセリフなど気にも留めない。
「その後はどうだい? 留美ちゃんを落とせたかな?」
(留美ちゃんだと?)
触れたくない話題に触れられ、しかも、『留美ちゃん』発言をされた。留美は俺の女だ、と腹立たしくなる郁未だがハッと気付く。
(いや、アレはあくまでも賭けの対象だ。可愛げのない女だ)
留美のアパートで過ごした時間は心温まるものだった。留美の瞳も優しくて、不覚にもアパートを離れ難いとさえ感じた。
なのに、出社した途端、いつもの冷徹な氷のような瞳を向けられた。デートに誘っても無言のままなど、これまでの女では考えられない。
「……その様子だと振られたな」
「まさか! 昨夜は彼女の部屋に泊まったよ。俺にかかればどんな女もイチコロさ」
「……」
『女の部屋に泊まる=セックス』と考えるのが普通だ。賭けに勝ったと意気揚々とする郁未だが俊夫は騙されなかった。
「それで親密な関係になったとは限らんだろう? それに婚約指輪を彼女の左手にはめたのか?」
「何事も順番というものがあるだろう。泊まったその日に結婚申し込む男がどこにいる」