あなたとホワイトウェディングを夢みて

 相変わらず抜け目ない親父だと郁未が舌打ちする。すると、俊夫が自慢して言う。

「俺はキス一つでプロポーズOKだったぞ」

(それは母さんのことか?! 母さんは親父のキス一つで結婚決めたのか?!)

 自分の両親の馴れ初めなど聞きたくもない郁未は電話を耳から離す。
 兎にも角にも、今は留美の堅苦しい鎧を脱がせて身も心も溺れさせるのが先決だ。これ以上父親に主導権を握らせるつもりはないし、自分の人生は自分で決めるのだと郁未の決意は固い。

「あとで経過報告するよ」
「そうは待てんぞ。今年中に結婚式を挙げるつもりで婚約指輪を送れないならばお前の負けだ、いいな」

 一度約束をしたのだから、それは違えることはしない。
 壁に掛かるカレンダーに目をやった郁未。今月はまだ九月。いや、もう九月。
 秘書なら一日もかからず左手薬指にダイヤが光っているだろう。しかし、相手は留美だ。
 今月いっぱいで落としたとしても、年内の挙式を留美が承諾するのか疑問だ。今月末に指輪を嵌めさせても二ヶ月内の挙式だ。

「プレイボーイのお前だ。楽勝だろう?」

 内心『冗談じゃないぞ』と思いながらも、『ええ、全く問題ありませんよ』と口走る。
 絶対に負けるつもりのない郁未。
 勝ち気な態度で俊夫に応戦する。

「期待しとるぞ」
「ええ、期待して待ってて下さいよ!」

 このままでは、来年、見知らぬ女と結婚させられる羽目になる。
 この際、留美がどんな反応を示そうが既成事実さえ作ってしまえばいいのだと、郁未は窓に向かって不敵な笑みを浮かべ拳を握りしめた。
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