あなたとホワイトウェディングを夢みて
――翌日のこと。
会社へ出社した郁未はこの日珍しく、他の社員と一緒に一般のエレベーターに乗り上へ上がって行く。そして、情報処理課のある三階で降りると留美の居る課へ真っ直ぐ向かった。
いつもは役員専用エレベーターを利用する郁未が何故一般エレベーターに乗ったのか、乗り合わせた社員達は興味本位で郁未の姿を追って行った。
そうとは気付かず、郁未は留美の居る課へと闊歩して行く。
「やあ、おはよう諸君」
突然現れた郁未の姿を見て、課長も田中もぎょっとした顔をして固まる。
「おはようございます、専務! 今朝は急用でございましたか? ご連絡頂ければこちらから伺いましたのに」
相変わらずのご機嫌取りをする課長を尻目に、郁未は『それには及ばないよ』と呟きながら辺りを見渡す。
「佐伯君は出社しているかな?」
見渡す限り留美の姿は情報処理課にはない。課長以外は、恍惚とした顔をする田中がいるだけ。
まだ出社していない留美に小さな溜め息が出そうになった時、郁未の背後から覚えのある冷たい視線を感じた。
すると、『おはようございます』と留美の鬱々とした挨拶が聞こえてくる。
声の方へ振り返ろうとした郁未だが、素知らぬ顔をした留美が横を通り過ぎて行く。
「おはよう。気分が優れないのか? 元気ない様だが昨夜は眠れなかったのか?」
素っ気無い態度の留美。仕事とプライベートであまりにも違い過ぎて郁未の頬が引き攣る。
「いいえ、一人でゆっくりよく眠れましたが。それより、何か急用ですか?」