あなたとホワイトウェディングを夢みて
朝から情報処理課を訪れたのだから、何かあるのだろうと留美が質問を返す。
すると、いつの間にか情報処理課に見物にやって来た社員らでごった返し、ドアや廊下側の窓と言う窓を埋め尽くし、皆がみんな興味津々な顔で覗き込む。
留美の背後に見える恐ろしいほどの社員らの視線に気付いた郁未がたじろぐ。
「昨日のデーターベースの件だが、君の都合の良い時に私の部屋へ来てくれ」
「直ぐに参ります。何か準備する資料などはございませんか?」
「いや、君が来てくれるだけでいい」
見物人を意識した郁未はいつも通りの口調で話し、留美も通常の業務での対応をする。
外野はロマンスを期待し目を輝かせて覗いていたが、二人の会話を見た途端だんだん興醒めていく。
「ただの業務命令か、つまらん」
「誰よ、専務のラブシーン見られるって言ったヤツ」
「一大事件が起きるって聞いたぞ」
外野からブーイングが聞こえてくる。
社員らの行動が郁未には理解出来ず、呆気にとられて早々に部屋を出て行く。すると見物人もいなくなり室内が静まり返る。
騒々しかった廊下の方を横目で見ては小さな溜め息を吐く留美。郁未の呼び出しは、昨日誘いを断ったからだろうかと少し気が重い。
先ずは心を落ち着かせそうと、部屋の片隅にある流し台へと行き、いつもより濃い目のコーヒーを淹れた。
「佐伯君? またミスしたのかね? 専務直々の呼び出しとは」
「佐伯さん、あなた、まさか、専務にモーションかけたんじゃ?」