あなたとホワイトウェディングを夢みて
突然の専務の訪問に、課長も田中も慌てて留美の所へと駆け寄っては矢継ぎ早に質問する。
二人は相変わらず関心があるのは自分の事だけ。そんな二人の顔を見て『問題ありません』と苦笑して答える。
その言葉に二人は同時に安堵した顔をした。
二人とも自分のデスクへと戻って行くと、留美はコーヒーを一気に飲み干す。
(苦っ……)
喉を通り過ぎるコーヒーの苦さに留美はむせてしまった。しかし、これから専務室で郁未と二人っきりになると思うと、素面ではいられなく、アルコール代わりに濃い目のコーヒーをもう一杯勢いよく飲んだ。
「行ってきます」
戦闘態勢に入り気合いを入れる留美。課長と田中に声をかけると颯爽と部屋を出て行く。
最近の郁未の態度に振り回されっぱなしの留美は、今回はこれまで通りの一社員として振る舞うと、勢い勇んで専務室へと向かって行った。
ところが、いざ、専務室の前までやって来ると、ドレスアップした郁未の顔がボンッと目の前にチラつく。
(せ、専務なんかカボチャと思えばいいのよ!)
浮かぶ郁未の顔を掻き消し、高鳴る鼓動を静めながらドアを数回ノックする。
すると『どうぞ』と、胸がキュンとなるセクシーな声が返ってくる。
「失礼します」
何とか平静を装い室内へ入ると、パノラマ窓を背景に郁未が腕組みして立っている。モデルの撮影のような光景に、一瞬留美の呼吸が止まる。
「営業部で使用するデータを、もう少し使い勝手を良くして欲しい」
郁未の甘い声はまるで媚薬のようだと、留美の胸が高鳴る。