あなたとホワイトウェディングを夢みて
「いただきます」
郁未が淹れてくれた緑茶。急須に茶葉とお湯を入れる、それだけの事だが、常に秘書や家政婦が全ての面倒を見てくれそうな郁未の立場を考えると、今日の事は天地がひっくり返るような出来事の連続なのだろうと、留美は苦笑する。
折角、郁未が淹れてくれたお茶だからと、留美はゆっくり味わいながら飲んでいく。
「どうだ?」
留美の反応を興味津々な瞳で見ている郁未。
「美味しいわ」
今度は程よい濃さでまろやかな緑茶だ。口元が緩み微かに微笑む留美を見て、郁未はホッとしている。
一口、二口と留美が湯呑みを口へ運ぶが、緑茶を殆ど残したまま湯呑みをテーブルへ戻す。そして、小さな溜め息を吐くと寝室がある方に目を向けた。
郁未はその様子を見ると襖の方へと寄って行く。
「休むか?」
襖を開けながら郁未が訊く。
留美はベッドに横になりたいものの、会社では上司に当たる専務の郁未が居ては、休まるものも休まらない。
寝具と言えば、寝室にあるベッドが一つだけ。前回と違って郁未と留美の立場が逆転している状態で一人だけベッドに入れない。
「あの、大丈夫ですから。専務は早く着替えたいでしょうから、もう自宅へ戻られた方が良くないですか?」
今すぐ帰れとは言えないが、それとなく帰宅を促す留美だった。けれど、ベッドを眺めていた郁未が『そうだな』と呟くと開けた襖を閉じて留美の前にしゃがみ込む。