あなたとホワイトウェディングを夢みて

 いきなり目の前に腰を下ろした郁未に驚いた留美が身体を仰け反らせる。
 すると、にっこり微笑んだ郁未が言う。

「そうだな、ここでは俺が寝るスペースが確保出来ないし、俺がいても邪魔になるだけのようだ」

 だから帰宅するのだと郁未がやっとアパートから出ていくものだと思い込んでしまった留美。ところが、郁未がニヤリと意地悪な高校生のように微笑むと、留美の背に腕を回し抱き寄せ、そのままグイッと持ち上げてしまった。

「専務?!」
「マンションへ帰る」

 マンションへ帰宅するのに、何故お姫様抱っこされるのか意味不明な留美は口を小魚のようにパクパク動かす。

「面白い顔だな」
「は?」

 声にならない留美の顔を見て、フッと笑うと郁未が耳許で囁く。

「俺のマンションへ一緒に帰るぞ」

 郁未の信じられないセリフが続くと、ますます留美はパニックを起こしかける。
 『下ろして』と脚をバタつかせようとすると『落とすぞ』と脅される。すると、ホテルでのあの一件を思い出した留美は、聡の目の前で落とされた時の痛みが頭を過り、急に静まり返っては大人しく抱かれている。

「良い子だ」

 耳許で囁かれる甘い声、誘われるような響きに留美は身体がゾクッとしてしまう。
 最近の郁未は、セクシーな自分の声を自慢したいのか、耳許で何度も囁き惑わせようとする。留美は、他の女同様に従順になるつもりはないと反発したくなるが、それでも、郁未の甘い囁きには抗えない。
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