あなたとホワイトウェディングを夢みて

 今の状況から逃げ出したい留美は、暗闇に身を隠すか意識を何処かへ飛ばしたい気分だ。
 そしてあわや意識を失いそうになるほどのショック状態に陥りそうになると、郁未が留美の頬を叩いて叫ぶ。

「大丈夫か? また胃痛なのか?」

 青ざめた留美を見て驚く郁未は留美の身体を抱き上げる。
 ベッドに胡座をかいて座る郁未が、太股の上に留美を乗せ、まどろむ留美の肩を何度も揺さぶる。
 郁未の叫びにも似た声に目をパッチリ開いた留美は、ハッとして郁未の顔を見上げた。

「気は確かか?」

 抱きかかえられる郁未の身体から温もりが直に伝わると、郁未が衣服を纏っていないと改めて感じる。すると、質問された答えを返そうにも言葉にならない。
 けれど、真顔の郁未を見て留美は頷いた。
 留美の反応を見て郁未はホッとしたのか、留美の肩を揺らすのを止めた。そして、自分の胸へとギュッと抱き寄せる。
 郁未の唇から『無理するな』と小さな声が漏れると、留美は郁未に抗う気が起きなく、そのまま郁未の腕の中で抱きしめられたくなる。

「俺は仕事へ行くが、君はここでしっかり養生するんだ」
「え?」

 ここはホテルのスィートルームではないのかと見渡す。
 病院の診察後、自分のアパートへ戻って行ったのは記憶に残っている。アパートで郁未に温かいお茶を淹れて貰った。その後、抱きかかえられ車へ乗せられたのだが、それ以降の記憶は殆どが曖昧だ。

「あの、ここは……」
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