あなたとホワイトウェディングを夢みて

「自宅へ帰っても一人暮らしなんだ。誰も君の面倒を見てくれる人はいないだろう? それに、もしまた具合が悪くなった時、どうするつもりだ?」
「薬を処方して貰ったので、本当に大丈夫ですから」

 身体を捻りながら郁未から離れようとするが、そんな留美の身体を郁未は両手で抱きしめ、留美の頭を自分の胸へと押し当てた。

「専務?」
「これ以上俺に心配かけるな」

 それは郁未が心配していたと意味する。
 頬から伝わってくる心臓の音が不思議と心地よい。トクントクンと大きな音が留美の耳へ入ってくるが、その音がさっきより速まっている。

「……有り難うございます」
「上司として当然のことだ」

 つい、上司という言葉を使ってしまった郁未。
 仕事が絡むと留美相手では素直に表現出来ない自分がいると自覚する。

「そうですね。胃痛の原因は専務ですから」

 仕事上のストレスよりも、慣れないディナーへ誘われたり、こんなふうに突然誘惑されたりして、このことが要因になっているのかと悩ましい顔をする郁未だ。
 郁未が言葉に詰まると留美が耳許で呟く。

「でも、嬉しかったです。専務が優しくて」

 嬉しそうに留美が微笑む。それだけで自分が天国気分を味わうなど予想もしていなかった郁未は、この想定外の心の弾みがもっと留美のそばに居たいと思わせる。
 けれど、時計の針は容赦なく時を刻んでいく。
 いつまでも留美を抱きしめては居られない。

「今日だけでも家政婦に甘えてくれ」

 懇願するように言うと郁未は留美の唇に優しく口づけした。
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