あなたとホワイトウェディングを夢みて
第六章 本気の恋は胸が苦しい
平日の平常な会社の一日。
いつもと何ら変わりない会社の朝を自分のデスクで迎えた郁未だが、心ここにあらず瞳は遠くを見つめている。デスクに座ったまま両手を机上に乗せ、今にも仕事に取り掛かりそうな体勢だが、生気のない郁未は虚ろな目をしている。
朝のコーヒーを運んで来た秘書の姿も目に入らない。
「専務?」
秘書が声をかけても郁未は上の空。
机にコーヒーを置いたものの『どうぞ』と言う秘書の声に無反応だ。
「どうかなさいましたか? 具合でも悪いのでは?」
秘書のセリフを聞いて郁未は、留美が大人しくマンションで家政婦の世話を受けているのか気になり落ち着かない。
「忘れ物を取りに帰る」
パッと椅子から立ち上がった郁未は、机上に置いていた車のキーを掴み部屋から出て行こうとする。
「忘れ物でしたら秘書の私が受け取ってきますが」
普通なら自宅に連絡し、それを秘書に引き取らせれば済む事だ。しかし、以前の秘書にそれをした際に部屋を物色され、挙げ句の果てには盗聴器等まで仕掛けられた。
そんな危険は二度と犯すつもりはないし、今回は忘れ物ではなく、留美の様子伺いに戻りたいだけだ。
自宅に電話をかければ済む話なのに、胸騒ぎがする郁未はどうしても自分の目で留美の姿を確認したかった。