あなたとホワイトウェディングを夢みて
自宅へ戻る予定だったが、留美の居ないマンションへ帰っても意味は無い。かと言って、会社の予定は全てキャンセルしたのに、今更会社へ戻る気もしない。
まるで信頼していた女に裏切られた気分の郁未は車を高台の方へと走らせた。そして向かった先は、セレブに人気の高級ホテルで、郁未が頻繁に利用するところだ。
市街地が一望出来る高台に聳え立つ老舗ホテル。北欧の城を連想させる白亜の宮殿と思しきホテルだ。
エントランス前に車を停めると、顔見知りのドアマンに車をキーごと預ける。エントランスを通り抜けていく郁未は受け付けでいつものスィートルームにチェックインする。郁未は鍵だけ受け取ると案内を断り、一人で部屋へ向かった。
そして、スィートルームへ入ると、リビングルームの横にある寝室へ直行し、上着とネクタイを外すとベッドに倒れ込むように横になる。
「疲れた……」
まだ一日が始まったばかりのこの時間帯。なのに、心身共に疲労感に襲われる。倦怠感が抜けきれない郁未がベッドに横になると、いつの間にか眠ってしまった。
それからどれだけ眠ったのか、熟睡した郁未が目を覚ましたのは日が高く昇った頃。南に面した窓の外を眺めると、上空から太陽の光が燦々と降り注いでいた。
「……寝てしまったのか」
大きなベッドが目に入り、自宅マンションにあるクイーンサイズのベッドと似たようなサイズに、郁未は留美の笑顔を思い浮かべる。それも、歩道を歩く聡と一緒にいた時の留美の笑顔だ。