あなたとホワイトウェディングを夢みて
ところが、スィートルームへやって来た二人だが、郁未は部屋へ入るなり女から離れ窓際へと一人歩いて行く。
いきなり突き放された女はドアを閉めると、一歩も動かずに腕を組んで文句を言う。
「やる気あるの?」
厳しい女の声に郁未は振り返りもせず、窓の外を眺めながらボソッと呟いた。
「ない」
首を横に振った女が呆れて郁未の所まで闊歩する。
そして、郁未の目の前までやって来ると、今度は郁未の肩を掴んで質問した。
「じゃあどうして部屋へ誘ったの? 何がしたいの?」
「気分を晴らしたかったんだ」
女の顔を見た郁未は、気分転換にこの女を抱けば気が済むのだろうかと、いきなり女を抱き寄せては唇を奪うようにキスした。突然のキスに驚いたものの女もキスに応える。
ところが、どんなに魅惑的なドレスを着ていても、男を惑わす妖艶な女でも、留美の時のような情熱的なキスにはほど遠い。
もっと留美とのキスで得られるような心が熱くなるようなキスがしたく、郁未のキスが深まる。それでも、やはり留美とは全く違うキスの味に、郁未は女の肩を掴んで引き離した。
すると、驚いた顔の女が郁未を見上げる。
「あなた、キスが変わったわ」
「え?」
女のセリフの意味が分からない郁未は呆然として立ち竦む。
すると、女は『キスの相手を間違えているわよ』と言って、ドアの方へと戻って行く。ドアを開けた女は一度振り返り郁未に視線を戻すと、クスッと鼻で笑って呟く。
「もう会わないわ」
その言葉を残し部屋から出て行った。