あなたとホワイトウェディングを夢みて
女を部屋へ連れ込んで僅か数分の出来事に郁未は呆然となる。しかし、郁未もまた、他の女と会いたいとは思えなくなっていた。
すると寝室の方から携帯電話の着信音が流れてくる。
上着のポケットに入れたままにしていた携帯電話。その上着もベッドの上に放りっぱなしだったのを思い出し、急いで寝室へと入って行った。
液晶画面で確認すると聡からの電話だ。
渋々通話ボタンを押すと、スピーカーから聡のハツラツとした声が聞こえてくる。
「よお、あれからどうだ? 留美ちゃん元気してるか?」
「それは俺よりもお前の方が詳しいだろう」
二人一緒に出かけていたのだから。もしかしたら、二人はまだ一緒に居るのかも知れないのだ。
「なんだバレてたのか」
「留美は俺のターゲットと知って誘い出したのか?」
ターゲット、それは口実に過ぎない。
断りもなく無断で留美を連れ出した聡に怒りを向ける。
「おいおい、ターゲットなんて言い方はよせよ。お前だって留美ちゃんを憎からず思っているんだろ?」
「留美は親父との賭けの対象だ。それ以上でも以下でもない。それは最初に説明しただろ」
苦し紛れな言い方だ。
すると『素直じゃないな』と電話の先で呟く聡の声が聞こえてくる。
「そんな話しする為に電話したのなら、俺はもう用はない、切るぞ」
聡の明るい声を聞かされるだけで気分を害する郁未は電話を一方的に切ってしまった。
再び、電話をベッドへ投げつけリビングルームへと戻って行く。そして、部屋備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出すと一気に飲み干した。