あなたとホワイトウェディングを夢みて
「留美も留美だ。男と逢い引きさせる為に泊めたんじゃないぞ」
聡と仲良く並んで歩く留美の姿を思い出すだけで腸が煮えくりかえる思いだ。
もう一本、冷蔵庫からビールを取り出し一気飲みした郁未は、どうしても酔えなくてますます苛立ちが募る。
缶をテーブルの上に二つ並べて置いた郁未は、寝室へ戻り上着を掴み取り羽織る。布団に無造作に置いたネクタイを見て、何故か留美の顔が浮かんでくる。
すると握りつぶすようにネクタイを掴み上着のポケットの中へ突っ込んだ。
自分の車を運転してやって来たホテルだが、飲酒運転を避ける為にホテルのエントランスで客待ちをしていたタクシーに乗り、自宅マンションへと帰って行った。
マンションに到着すると歩く足取りは重く、たかだか三百五十程度の容量の缶ビール二本で酔えるはずなどないのに、体までも重々しい。
自分の部屋のフロアまでエレベーターで上がって行くと、暫くエレベーターホールの壁に寄りかかっていた。
留美が帰宅していなかったらと思うと、聡の浮かれた声が幻聴となり聞こえて来る。二人がまだ一緒にいる可能性も考えられ、郁未の胸は熱くなる。玄関ドアを開けるのがこれほど怖く感じた事などなかった。
しかし、大きく深呼吸した郁未は拳を握りしめ自宅玄関へと足早で行く。
そして、施錠を解除しドアを開けると、土間には留美の小汚い運動靴が綺麗に並べて置かれていた。それを見ただけで郁未はホッと胸を撫で下ろす。