あなたとホワイトウェディングを夢みて

 郁未はとうに携帯電話は利用している。だからプライベートに必要な電話なのだろうかと秘書が確認すると、郁未は頷いてプライベート用に契約するようにと指示を出す。

「直ぐに私名義で準備してくれ」
「はい、では直ちに」

 秘書は軽く会釈をし部屋から出て行った。

「忘れるところだった……」

 華やかなドレス姿の留美を妄想していた郁未は、すっかり頭の中は留美一色に染まっている。今夜は自分の為に着飾るように命令した。前回のディナーで美しく化けた留美のドレス姿がどうしても脳裏から離れず、その姿がチラついて仕事が手に付かない。
 最近の留美の姿を走馬灯のように思い浮かべていると、留美の部屋へ押しかけ携帯電話を壊したことを思い出した。

「まさか、今夜すっぽかすつもりじゃないだろうな?」

 留美の気の強い性格とこれまでの経緯を考えれば、業務上の過失を自らの体で償うなど留美には有り得ない。それに、今回の責任の所在は留美一人とは言えないものだ。それなのに横暴な命令に留美が従う。多少良心が痛むも、郁未は留美の今朝方の姿が悩ましくなる。そして、それは留美も同じ様に感じていた。
 自分のアパートへ帰宅したものの、留美は寝室のタンスのドアノブに下げているドレスを横目に、ベッドに腰掛けたまま動けないでいる。

「はあ……」

 何度も大きな溜め息を吐く留美だが、だからとそれで状況が一転する訳でもなく時間だけが過ぎていく。
 郁未の指示通り早々に退社し、今夜の為にドレスアップをしなければならないと分かりつつも、何故、あの時二つ返事で応じてしまったのか自分でも信じられない思いだった。
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