あなたとホワイトウェディングを夢みて
留美のアパートに到着した郁未は、アパートの正面玄関そばの空き駐車場に車を停めた。車から降りた郁未は辺りを一望し、相変わらずひっそりとした古びたアパートだと目を細める。
階段を上がる郁未は、いつもよりゆっくりと一段一段階段を確かめるように歩いて行く。
(最近運動不足の所為か、たかだか階段一つで呼吸が乱れている?)
階段を一段上がる毎に心拍数が微妙に上昇している。脳裏に浮かぶ妖艶なドレス姿、それが留美かと思うと打ち消しても打ち消せない。自分でもそれが何なのか大体の見当は付く。それでも、ドレスアップして待つ留美の姿に惑わされているのではなく、日頃の運動不足が起こす呼吸の乱れと自分に言い聞かせる。
留美の部屋へやって来た郁未は大きく深呼吸すると玄関ベルを押した。ドアの前にいる郁未にまでブザー音が聞こえてくるが、室内からは物音一つしない。
「今日は早退させたのに、まさか居ないってことはないよな?」
今夜、業務終了後に郁未が迎えに来るのは分かっている。迎えがあれば直ぐに出かけることも留美は理解していたはず。なのに、玄関ドアの奥からは留美の気配を感じ取れない。
留美が居留守を使っているのかと、郁未は玄関ベルを数回押すとドアを拳で何度も叩く。
「留美?! おい、いるんだろう!」
室内の反応がないと再び心拍数が上昇する郁未。殴りつけるように拳をドアに叩き付けると郁未が大声を上げる。それでも物音一つしない様子に、頭に血が上る郁未はドアノブをギュッと握りしめグルッと回した。
すると、玄関ドアは施錠されておらず、いとも簡単にドアは開いた。
「……あいつ」
この物騒な世の中、相変わらず留美の危機感のなさに郁未の苛立ちが募る。