あなたとホワイトウェディングを夢みて
「留美! 居るんだろう?!」
急いで玄関内に入って行った郁未は慌てて靴を脱ぎ捨てると廊下へ駆け上がって行く。茶の間へ行くも留美の姿はない。寝室と繋がる襖に手をかけると乱暴に開けた。
すると、ベッドに腰掛ける留美の姿があった。
留美の横にはディナーの時に着たあのドレスが広げられている。そのドレスを身に纏い、今夜の為に美しく着飾る予定のはずなのに、肝心な留美は今朝会社で見た時の服装のまま俯き加減に座っていた。
「留美、何している?」
「え? あ、専務? どうして……」
顔を上げた留美の瞳は虚ろで、開いたカーテンから差し込む夕日が顔に当たり、少し瞳が潤んでいるようにも感じる。
「留美……着替えていないのか?」
「あ……もう、そんな時間なの?」
今朝の帰宅後から、留美は着替えもせずにそのままその場に座っていたのだろうと推測できる。
窓へ目をやった留美は思い立ったようにハッと立ち上がり、ベッドに広げているドレスを掴む。
「留美、出かけよう」
「え? あ、これに着替えなきゃ……」
今夜は郁未の為に着飾るように命令を受けていた。時間も忘れ呆然としていた留美は慌てて両手を首の後ろに回し髪の毛を束ねようとする。しかし、郁未が留美の腕を握りしめ『行くぞ』と茶の間の方へと引っ張って行く。
茶の間のテーブルの上に置いていたバッグが目に入った郁未はそれを掴むと留美へ手渡し玄関へと向かう。
「待って、この格好じゃ……」
仕事着のまま出かけることに抵抗を感じた留美が力を込めて郁未の腕を振り払う。両手でバッグを胸に抱きしめた留美は少し俯きながら『着替えさせて』と頼む。