あなたとホワイトウェディングを夢みて
いつも郁未が一緒に連れ立っている女性たちは、誰一人として仕事着の格好の人はいない。美しくドレスアップしては周囲の者の目を楽しませることはあっても、残念に思われる女性などいやしない。今の自分の姿は誰が見てもお世辞にも郁未に釣り合っていない。
「俺に任せろ」
いつもの傲慢な郁未の声が留美の胸をキュンと締め付ける。
何故か郁未に任せておけば全てが万事上手くいく、そんな気にさせられた留美はこの時ばかりは反抗的な態度は取らず、素直に郁未の手を取り一緒にアパートから出て行く。
今夜、郁未と何処で何をして過ごすのか、不安で胸が押しつぶされそうになり、この原因を作った張本人の課長を恨みたくもなる。けれど、業務上の過失を一社員に責任を押しつけようとする郁未への怒りが込み上げてくる反面、今夜起こることに心が揺らいでいるのも間違いない。
郁未の顔を見ればきっと怒鳴りまくると、郁未を罵るものだと自分の中ではそう感じていたのに、郁未の言葉に安堵する自分がいると留美は動揺する。
郁未の手に引っ張られながら駐車する車のところまでやって来た留美。ドアの前で躊躇したものの、郁未に促されるまま助手席に乗る。丁寧にドアを閉めた郁未は留美の気が変わらない内にと急いで運転席に乗り込む。
「さあ、行こうか」
運転席に座る郁未の顔を横目でチラリと覗き見た留美の視線は郁未の唇へと向く。ゆっくり喋っては呼吸する、郁未の唇の動きから目が離せない。留美は頬を赤く染めながらその厚みのある下唇を見つめている。
当然、郁未は留美の視線を感じ、恥じらいながらも意識している留美の様子に郁未はフッと笑みが零れる。
留美が以前ほど自分を嫌っていないと感じると運転する郁未の手はとても軽快になる。