あなたとホワイトウェディングを夢みて
そして、しばらく車を走らせ向かった先は、いつも郁未が利用する洗練された高級ホテルとは違い、郊外に聳え立つフランスの古城シャンボールに似たクラシックなホテルだ。
エントランス前に車を停め運転席から降りる郁未。
堂々たる態度で颯爽と歩く郁未にエスコートされ留美も車から降りる。目の前に拡がる趣のある中世の古城を感じさせる高い天井、アーチ型のエントランスが二人を出迎える。
「素敵……」
駅前に建つ高級ホテルのような、煌々とした照明や金銀の装飾品が煌びやかに輝く、そんな光景は無い。暖色系のレンガ造りの外壁、足下を照らす照明はアンティークなシャンデリアでろうそくの灯火を思わせる。その温かみある灯りが心地よくさせてくれる。
留美が素晴らしいエントランスに見入っていると、肩へ腕を回した郁未が『行くぞ』と声をかける。ガラス張りの回転ドアを通り抜けエレベーターホールへと直行する。
「あの、受け付けしなくてもいいの?」
「大丈夫だ」
今夜二人が出かけることは決まっていた。既に部屋を予約済みなのだろうと留美が辺りを見渡していると、周辺の客らのゴージャスな姿が目に入ってくる。
留美の目には明らかに自分が場違いな格好をしていると気付く。同じ仕事着姿でも、留美が着ているのは量販店でハンガーに下げられている安物スーツだ。それに対して郁未はブランドスーツでとても上質なものだ。
「専務……あの、私、こんな格好で」
今夜の為にと早々に帰宅させた郁未の言葉の意味を理解した留美。郁未の心の中では最初からこのホテルを訪れると決めていたのだ。たとえ他のホテルへ行ったとしても、郁未がエスコートするホテルは何処も彼処も一流のホテルのはず。なのに、安物の仕事着のままで郁未の横に並ぶとは、急に羞恥心が込み上げてくる。
すると留美の心を見透かしたように郁未が言う。
「ここの誰よりも君は素敵だよ」