あなたとホワイトウェディングを夢みて

 妙なもので、郁未のひと言で留美は恥じらいが何処かへ吹き飛んでいく。
 郁未の視線は前方に真っ直ぐ向けられているのに、まるで自分の体を服の上から覗き見られているようで、留美の心臓はドキドキして騒々しい。
 すると、胸のざわつきを鎮めるかのように、肩を抱く郁未の腕に力が入る。これではますます留美の心臓は騒々しくなる。
 エレベーターホールへ到着した二人は、直ぐにエレベーターへ乗ることが出来た。そこで郁未が押したのは最上階のボタンだ。一般人の留美に縁のない、セレブが好んで宿泊するスウィートルームがあるフロアだ。
 レンガ造りの古城のようなホテル、最上階のスウィートルームには貴族しか立ち入れない豪華な部屋ではなかろうかと、留美は映画のワンシーンを思い浮かべる。ただでさえ狭い空間の密室に、郁未と二人並ぶ緊張感に留美の心臓は破裂しそうなのに、そんな部屋へ案内されては不安に襲われ背が汗で湿気ってしまう。
 最上階で降りた二人はスウィートルームの前までやって来る。重厚感溢れるドアに留美の心臓の鼓動は更に速まる。ドアを開けた郁未に室内へ入るよう促されるもその足取りは覚束ない。

「留美」

 耳許で囁かれた次の瞬間、体が急にフワッと浮き上がり自分の体が宙に舞い上がる。留美は頭の中が混乱し瞼をギュッと閉じた。すると、体が宙に浮いたまま部屋の奥へと進んでいく。ハッと瞼を開くと、背中に感じる筋肉質な腕が郁未のものだと気付く。

「あの……大丈夫ですから。下ろして」
「テーブルまで運ぶだけだ」

 スーツ姿が華奢に見える郁未は一見は細身だ。なのに、抱き上げる腕はとても肉厚で、筋肉質な男性らしいゴツゴツとした腕だ。その腕に抱かれていると分かると、留美の心臓は更にバクバクと騒々しくなる。
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