あなたとホワイトウェディングを夢みて

 円形テーブルの中央に飾られた、情熱的な薔薇の花。まるで留美を見つめる郁未の瞳のようで、咄嗟に郁未から目を逸らす。
 外した視線の先にあるワインクーラーに、ラベルのデザインや銘柄など留美が記憶するワインと酷似しているボトルが横たわっていると目を凝らして見る。
 ワインを凝視する留美に気付いた郁未がボトルに手を伸ばし、ボトルを回転させラベルを留美に向けながらワインの説明を始める。

「これは特製のワインだよ。フランスの古城が所有する葡萄園で作られた年代物のワインだ」

 郁未の説明を聞かずとも留美は知っていた。そのラベルのワインがフランス製で特別な意味を持つ物だと。

「このホテルと同じで趣のあるワインね」

 ワインの滑らかな舌触りを思い出し留美の眼差しが和らぐ。緊張の糸が取れたような柔らかな表情へ変わる留美を見て、郁未の瞳も和らいで行く。穏やかな留美の雰囲気に絆され、郁未は姿勢を正し留美を見つめると改まって言う

「食事の前に君に謝罪したい」

 突然の郁未の謝罪宣言。それは例の仕事の件かと期待し留美もまた姿勢を正す。
 しかし、郁未の口から出た言葉は留美の予想とは異なっていた。

「携帯電話だが、今日渡すつもりが間に合わなかった。今、準備させているからもう少しだけ待って欲しい」

 郁未に言われるまですっかり忘れていた、携帯電話を壊されたことを。それが無いと生活がとても不自由なのに。確かにそれも謝罪して欲しいし弁償もして欲しいが、今、郁未に求めるのはソレではない。留美は少し俯くと小さな溜め息を漏らした。
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