あなたとホワイトウェディングを夢みて

「ここを見て」

 ワインボトルを留美に向けながら貼り付けられたラベルを指さす。

「これは澤田家だけが飲めるワインなんだよ」
「でも、確かにそれは……」

 ラベルにはお洒落な筆記体『Angel Tears』で綴られた『SAWADA』との名前が刻印されていた。これまで素敵なデザインだと眺めても、書かれている文字を読み上げたことはなかった。
 留美が戸惑っていると郁未がワインボトルを元の位置へ戻し問う。

「君はいつも何処で買うんだい?」
「いえ、……その、父の友人が毎年送ってくれるから、お店で購入したものではないの」
「友人が?」

 留美が嘘を吐いているようにも見えず郁未は更に質問する。

「君の父親はフランスに知人がいるのかな? それともワイン通の親友が?」
「詳しくは知らないわ。ただ、父の古い友人はとても裕福な方で、毎年一本だけワインを頂くの」

 澤田家と同じくシャトーを所有する富豪、一般庶民の留美の家には似つかわしくない知人の存在に、郁未は疑いの目を向ける。そもそも、留美の親は高校教師だ。フランス人の知人がいること自体疑わしい。

「毎年送ってくださるのだから、今も二人の間に友情があるのだと思うわ」
「金銭的な繋がりではなく?」

 裕福な知人から何らかの施しを受けていると誤解されたくない留美は慌てて言い返す。

「父はお金を欲したことはないわ。それだけ長い期間、友好関係を築けるのはお互いに真の信頼があるからこそよ。そんな親友と巡り会えた父は幸せ者だと思うわ」

 留美の言葉が郁未の胸を突く。
 それが事実であれば、留美の父親は幸せ者かも知れない。人と言うものは財力のある者に群がり、地位や権力があればそれにあやかろうとする。
 けれど、父親の話をする留美の表情はとても穏やかで、物欲的にも金銭的にも強欲さを感じることはない。
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