あなたとホワイトウェディングを夢みて
「今日の午後に専務へ提出するデータは出来上がったの? 佐伯さんが担当してたでしょ?」
美味しそうにコーヒーを飲んでいると、背後から先輩社員が声をかけてきた。
留美より三歳年上の田中良美(たなか よしみ)だ。
「大丈夫ですよ、田中先輩。もう殆ど出来上がってますから」
専務に依頼されていた表計算ソフトのマクロ構築。それも無事終了し動作確認も済んでいて、後は引き渡すのみ。
きっと専務には満足して貰えると留美はそう確信していた。
専務の評価が楽しみな留美は上機嫌で田中にVサインを送る。
「それより先輩、そろそろ社食に行きませんか?」
壁掛け時計で時間をチェックすると、既にお昼ご飯の時間が差し迫っていた。
プログラムに没頭していた留美は、お腹の虫が泣き始める。
すると、カレンダーで日付を確認した田中が不敵な笑みを浮かべる。
「今日は水曜日だから、面白い光景が見られるわね。佐伯さんも結構ミーハーなのかしら?」
「冗談は止めて下さいよ。私は玉の輿なんて狙っていませんから。そもそも、結婚だってしたいって思わないですよ」
肩を竦めた留美が苦笑する。
今日は恒例の水曜日。
水曜日には会社名物のランチタイムが始まる。
毎週決まって水曜日は社員食堂で食事をとる専務。そこで、その専務を一目見ようと女子社員が社員食堂へ集まってくるのだ。
(専務は評判のプレイボーイで、これまで泣かした女は数知れず。たとえ容姿端麗のモデルみたいな男でも私ならお断りだわ)
留美は、短期間で交際する彼女が変わると噂される専務が嫌いだった。