あなたとホワイトウェディングを夢みて
 人前で平気で手をつなぐ郁未に戸惑う留美は、周囲の目が気になり頬を赤く染めると軽く俯く。ただでさえ生まれて初めて選ぶ婚約指輪に緊張し、隣に立つ郁未の凜々しさに留美は案内された部屋へ行こうにも足が覚束ない。

「大丈夫かい?」

 郁未からの優しい言葉にも慣れない留美は更に顔をリンゴのように赤らめて無言で頷いた。

「抱いて行こうか?」

 耳許で囁かれると心臓がビクンと跳ね上がり、留美は全身を真っ赤にして何度も頭を横に振って断った。すると、留美の反応を面白がるように郁未がクスクスと笑う。
 元プレイボーイだけに郁未が言うと冗談に聞こえない。ただでさえ留美はこれまで男性との交際の経験がないのだ。それがいきなり告白劇に始まり結婚話へと進展し、今は二人の婚約指輪を選びに宝石店へ来ている。しかも、セレブが周囲の目を気にせずに買い物が出来る、奥の特別室へと案内されて行く。予想外の展開に留美の思考回路がついて来ずパニックさえ起こしかけている。
 部屋に着くとスタッフがドアを開け二人を室内へと促した。二人が部屋へ入って行くとそこは十畳ほどの広さの応接室になっていた。部屋の中央には三人掛けのレザー張りのソファと大理石風のテーブルが設えられ、壁も床もカーテンも室内を重厚感のあるカラーで統一され、セレブ御用達宝石店の応接間という雰囲気を漂わせている。
 素晴らしい豪華な部屋に目を丸くした留美が室内を見渡すと、真正面の壁に大きく貼られた真っ白なポスターが目に飛び込んでくる。
 『ホワイトウェディングをあなたと』というタイトルの冬景色のポスター。寒中の小島を背景に、牡丹雪が降る中、愛し合う男女が寄り添い一生を誓う。純白のウェディングドレスとタキシードを身に纏った新郎新婦が愛の言葉を交わす。素敵なポスターに惹き付けられた留美はしばらくそのポスターから目が離せない。

「ホワイトウェディングか、良いね」
「ええ、素敵だわ」

 留美の瞳がキラキラと輝き、ポスターを幸せそうに見つめている。出来れば留美の願いを叶えてやりたいと、郁未は留美の手の指を自分の指と絡ませギュッと握りしめると、手を持ち上げ留美の手の甲にチュッと熱い口づけをした。
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