あなたとホワイトウェディングを夢みて
「あの豪華な指輪って、やっぱりあれは婚約指輪だろう? だとしたら寿退社なのか? いや、しかしその報告はまだない。なあ、田中君、いったい佐伯君はどうなってるんだ?」
そんな質問を振られても何も聞かされていない田中は答えようがない。
だが、内心は日頃から課長の尻拭いをしてきた留美には指輪を贈ってくれた相手と早く結婚して寿退社して欲しい思えた。自分だって出来ることならばそうなりたい……と悩ましげに溜め息を吐く。
田中は留美の左手薬指を半ば羨ましげに見ながら、部屋の片隅にある流し台へと行った。食器乾燥機の中から二つカップを取り出すと自分と留美の分のコーヒーを淹れ、留美のデスクへとカップを運んで行く。
「どうぞ」
香ばしいコーヒーの香りに誘われるように留美の意識が現実世界へと引き戻される。カップを手渡す田中に気づくと慌ててかざした左手を下げ、『ありがとうございます』と右手でカップを受け取った。
カップを渡した田中が怖いくらいにっこり微笑む。しかし笑みの正体が理解出来るだけに、留美は口が裂けても指輪の出所は話せないと口をつぐむ。
田中としては後輩に先を越され、あまり気分の良いものではない。だが仕事仲間として祝福はするし、堅物で真面目人間の後輩の寿話題が気にならないと言えば嘘になる。相手が何処の誰なのか、ここは見逃すわけには行かないと先輩風を吹かし留美に迫る。
「もちろん、私には教えてくれるわよね? その指輪の送り主を」
送り主、それは勤務する会社の専務。しかも、社長令息な上に、女子社員の憧れの的。皆が玉の輿と狙う相手だ。それは先輩の田中も然り。当の本人からは二人の関係は公にして構わないと言われたが、専務狙いの田中には事実とはいえまだ話す勇気はない。
「え……と、いずれ分かりますから。それまでのお楽しみってことで……」
楽しみどころか留美には地獄を味わうのではないかと、今から女子社員の反応が恐ろしい。それを考えると絶対に秘密を貫き通すべきだと思えた。
そんな質問を振られても何も聞かされていない田中は答えようがない。
だが、内心は日頃から課長の尻拭いをしてきた留美には指輪を贈ってくれた相手と早く結婚して寿退社して欲しい思えた。自分だって出来ることならばそうなりたい……と悩ましげに溜め息を吐く。
田中は留美の左手薬指を半ば羨ましげに見ながら、部屋の片隅にある流し台へと行った。食器乾燥機の中から二つカップを取り出すと自分と留美の分のコーヒーを淹れ、留美のデスクへとカップを運んで行く。
「どうぞ」
香ばしいコーヒーの香りに誘われるように留美の意識が現実世界へと引き戻される。カップを手渡す田中に気づくと慌ててかざした左手を下げ、『ありがとうございます』と右手でカップを受け取った。
カップを渡した田中が怖いくらいにっこり微笑む。しかし笑みの正体が理解出来るだけに、留美は口が裂けても指輪の出所は話せないと口をつぐむ。
田中としては後輩に先を越され、あまり気分の良いものではない。だが仕事仲間として祝福はするし、堅物で真面目人間の後輩の寿話題が気にならないと言えば嘘になる。相手が何処の誰なのか、ここは見逃すわけには行かないと先輩風を吹かし留美に迫る。
「もちろん、私には教えてくれるわよね? その指輪の送り主を」
送り主、それは勤務する会社の専務。しかも、社長令息な上に、女子社員の憧れの的。皆が玉の輿と狙う相手だ。それは先輩の田中も然り。当の本人からは二人の関係は公にして構わないと言われたが、専務狙いの田中には事実とはいえまだ話す勇気はない。
「え……と、いずれ分かりますから。それまでのお楽しみってことで……」
楽しみどころか留美には地獄を味わうのではないかと、今から女子社員の反応が恐ろしい。それを考えると絶対に秘密を貫き通すべきだと思えた。