あなたとホワイトウェディングを夢みて
万事休す、そう思えた郁未は電話を切ると荒々しく携帯電話をソファーに置く。それと同時に着信音が鳴り出した。
もしや留美ではないかと期待した郁未は掴んでいたタオルを放り投げ、液晶画面で相手を確認もせずに急いで通話ボタンを押した。
「留美なのか?!」
咄嗟に叫んでしまった。すると、電話先からは厭味な笑い声が聞こえてくる。それは聞き覚えのある笑いだ。
「何か用ですか?」
留美ではなく父親の俊夫からの電話だと判ると、急に無愛想になる。
「佐伯留美がどうかしたのか? まさか、もう逃げられたのか?」
「別に、逃げられていませんよ。……ただ彼女に連絡を取りたいんですが、その……連絡が取れないだけです」
留美は昨夜アパートに戻らず、今日は有給休暇を取得し会社に出勤しない。留美と連絡取れずに半ば不安に陥っているなど、父親に知られたくない。
すると俊夫の口から意外なセリフが出る。
「佐伯留美の実家の連絡先を知りたくはないか?」
「調べたんですか?」
あの父親のことだ。息子が選んだ女では信用するに足りないと探偵を雇ったのかと不満が募る。しかし、今はその情報が欲しい郁未としては声を荒立てる訳にはいかず、父親の情報に縋るしかない自分が情けなく思いながらもここは頭を下げた。
「彼女の、留美の実家を教えてください。お願いします」
「お前のそんな切羽詰まったような声を聞いたのは初めてかも知れないな」
「茶化さないでください! 留美の実家を知っているんでしょ?!」
郁未の必死の懇願にしばし俊夫の反応が止まる。
「……教えてください……」
「それほどまでも彼女を愛しているのか?」
「はい」
間髪入れず答えた郁未。敏夫は再び間をおいてから教えた、郁未が知りたがった留美の実家を。