あなたとホワイトウェディングを夢みて
 郁未は背筋をピンと伸ばすと深々と頭を下げ「こちらこそ」とぎこちなく挨拶を返す。すると、にっこり微笑んだ母親が郁未と留美の父親の前にコーヒーカップを差し出した。
 柔らかな仕草や雰囲気がやはり留美に似ていると、上目遣いで母親の顔を拝む。

「留美は会社では皆に迷惑をかけずに、しっかりと仕事をしているのかしら?」
「ええ、それは勿論、彼女は優秀な社員です。社としても十分助かっています」
「それは良かったわ」

 留美の母親までもが目の前に腰を下ろし、郁未に留美の会社の様子を質問する。
 留美の両親を目の前に、正座し畏まって会話するこの光景はまるで家庭訪問のよう。こんな会話をしにここまでやって来たのではないと思いながらも、留美の両親の顔を見ると言葉が上手く出ない。

「あの子はちょっと頑固なところがあるから心配で」
「確かに、多少は意地っ張りではありますが、でも、彼女は芯の強い女性です。周りに流されることなく自分の意見をしっかり持ち、前に突き進む勇敢な女性でもあります。ただ、猪突猛進と言いますか……時折彼女のパワーには圧倒されます」

 留美の話となれば郁未の口も軽快に動く。留美のイメージを言葉にするのは簡単で、つい、いつものイメージまで饒舌に語ってしまった。

「そうですか、安心しました。やはり私は留美の父親ですから、娘のことは気になるものですからね」

 留美の居所を知りたくて来たのに、このままでは留美の居場所を聞き出せない。
 郁未は姿勢を正すと軽く咳払いをし尋ねた。

「あの、今日は留美さんはこちらにいらっしゃいますか?」
「留美ですか?」

 留美の両親はお互いに顔を見合わせた。
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