あなたとホワイトウェディングを夢みて
 そして、郁未の顔を見ると笑顔で交互に答えた。

「有給休暇を取ったからって、久しぶりに帰ってきてくれたんですけどね。あの子ったら、どこかへフラッと出かけてしまったんですよ」
「出かけたんですか?」
「行き先はどこだったかなぁ……明日には戻ると言ってさっさと出て行ってね。本当に困った娘だ」
「そういえば……ホワイトが何とかって聞いたような。そこの島へ行くとか行かないとか、そんな話していたわね」

 「ホワイト」、それは例の、ホワイトウェディングのポスターのことだと郁未はハッとした。
 留美のアパートの部屋にもそのポスターはあった。留美はよほどあの場所を気に入ったのか、或いは、ホワイトウェディングをやりたいのか。どちらにしても留美の行き先の見当がついた。

「留美さんは誰か友達と出かけたのでしょうか?」

 何故急に有給休暇を取って、しかも自分には一言の説明もなく行ってしまったのか理解に苦しむ。
 すると、郁未の心配を余所に、陽気な笑顔で留美の母親は「勿論、一人ですよ」と答える。

「一人ですって? それに一泊するつもりなんでしょ?」
「さあ、どうだろうね。日帰りできない時は泊まってくるだろうが」
「日帰りできない時はって……もしものことがあったらどうするんです? なのに一人で行かせたんですか?!」

 郁未の記憶の片隅に残るは、ホワイトウェディングの撮影場所、南国風の小島。しかし、ポスターの光景は雪が降り注ぐ中での挙式だ。その小島は南国ではない。予想より近い小島だろう。だが、島には変わりないのだ、日帰りできる場所なのか疑わしいし、辺境の地なのかも知れない。
 そんなところへ若い女性一人で行かせるなど言語道断で、留美の身に危険が及ばないとも限らない。教育者なのにのんきなものだと親の気が知れないと、郁未は頭に血が上る。
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