あなたとホワイトウェディングを夢みて
 郁未の気も知らず留美の両親はおっとりとしたまま。

「まあまあ落ち着いて、留美は子供ではないのだから。立派な大人ですよ」

 子供ではないから心配するのだ。どんなに気が強くとも留美はあれでも一応非力な女だ。旅先で不意に不審者に襲われでもしたら留美に抵抗出来る力などない。万が一留美が傷つけられたらと思うと、自分を恨む。

「彼女と連絡は取れませんか?!」
「いや、なんでも携帯電話を壊してしまったとか」
「あらまぁ、留美ったら電話も持たずに出かけたの?」

 あきれるほどにおっとりした留美の両親に怒る気も起きない。
 そもそも留美の携帯電話を壊したのは自分なのだ。そこは自分に非がある。それに、新しい携帯電話はまだ留美の手に渡っていない。
 連絡手段が閉ざされてしまった今、あのポスターだけが留美の行き先を知る唯一の手が掛かりで、そこへ行くしか無い。

「思い当たるところがありますから、留美を追ってみます」
「あら」
「ほぉ」

 ここでおとなしく留美の帰りを待つ気はない。留美の安否が気になるからには、今すぐにここを立つ。

「私が留美を探しに行きます!」

 留美の両親に啖呵を切った郁未は、ろくに挨拶もせず座敷を飛び出して行った。

「あらまぁ、行っちゃいましたよ、お父さん」
「郁未君も苦労するな」
「ですね」

 留美の両親は顔を見合わせると嬉しそうに微笑む。父親は手付かずのコーヒーカップにやっと手を差し伸べ、ゆっくりとコーヒーを味わう。
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