あなたとホワイトウェディングを夢みて
「だったらここの少し先にある観光案内所で聞かれたらどうですか? 他にも若い方向けのイベントや観光名所などもいろいろ聞けますよ」

 「ありがとうございます」と、お礼を言い切る前に、女の子が郁未のすぐ前までやって来て背伸びをしながら郁未の顔を覗き込む。

(なんだ? この子は……)

 流石にこんな小さな子の相手は苦手だ。郁未の本当の魅力は伝わらないし、言い聞かせなど自分には不向きだからと郁未は早く立ち去ろうとした。
 すると今度は女の子が郁未の服の裾を掴んで引っ張った。

「なっ?!」

 驚いて振り向いた郁未に女の子がにっこり微笑んで言う。

「お兄ちゃんもここで結婚式をあげるの? お兄ちゃんはカッコいいから結婚したい女の人がいっぱいいるんでしょ?」
「こ、これ、愛美! ごめんなさいね、この子ったら失礼なことを」
「いえ、急ぎますから、では」

 やはり小さな子は苦手だと郁未はそそくさと店から出て行った。
 そして、観光案内所へ向かおうと一先ず車に乗る。すると、どこから湧いてきたのか、郁未の車の後方に、割烹着や作業服を着た年配の女性や先ほどの女の子のような小学生の子らが何人も並んでいた。
 見送りに出て来たのか皆で手を振っている。さっきの女の子は地面を蹴ってぴょんぴょん飛びながら手を振っている。

「なんなんだ、ここは?」

 ここはホワイトウェディングの撮影場所で観光名所ならば、観光客など珍しくもないだろうに。郁未は気味悪がると急いでその場から走り去った。
 郁未の車が見えなくなるまで手を振り続ける謎の地元住民に驚いた郁未は、観光案内所へ寄るのも忘れひたすらアクセルを踏み続ける。アクセルを緩めることなく車を走らせること十分あまり。島の沿岸道路を走り抜けていくと見晴らしの良い海岸端へとやって来る。
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