あなたとホワイトウェディングを夢みて
留美のようでもあるが、歩くたびに帽子の鍔が彼女の肩までも隠してしまう。
これでは確認できない。ここは直接声をかけて、留美かどうか直接調べる。
郁未は自分のすぐ目の前まで来た女性に声をかけようとした。その時、浜風に吹かれて浮き上がる帽子の鍔を彼女が押さえ込むと、左手が郁未の視界に入る。
(指輪が?!)
女性の左手薬指には指輪はなかった。留美ではない。だが、郁未の身体は無意識の内に彼女の左手を掴み叫んでいた。
「指輪はどうした?!」
「な、何なの?!」
郁未に手を掴まれた女性は浜風に煽られて帽子を飛ばしてしまった。彼女の顔が露わになると、留美とは似ても似つかない女性だった。
「す、すいません。知人と間違えてしまって」
人違いしたと謝罪した郁未だが、突然のことに驚いた女性はかなり憤慨し「失礼だわ」と声を荒らげた。
郁未は相手の怒りを静めようと何度も繰り返し頭を下げ続けた。
「申し訳ありませんでした」
女性に痴漢行為で訴えられないとも限らない。郁未の必死の謝罪に女性は不満そうな顔をしたものの何も言わずに去って行った。
(助かった……)
留美に一日会わなかっただけでこのザマかと思うと自分が情けない。
しかし、留美は忽然と姿を消したようにいなくなった。そんな状況で郁未の気持ちに余裕などない。早く自分の目で留美の顔を見て安心したくて、砂浜の隅々まで留美の姿を追って探し回った。――けれど、何度見渡しても、浜辺には留美らしき女性は見当たらない。
(ここではないのか……)
ここには留美がいないと感じた郁未は駐車場へと戻って行く。
思い起こせばフェリーに搭乗していた観光客らしき人も車も少なかった。軽トラックや小型貨物車など島民が生活に必要な物資を運ぶ為にフェリーを利用していたように見えた。
もう暑い夏は過ぎ去り海水浴シーズンは終わった。あのポスター目当ての客ならば雪が舞い散る冬に集まりそうだ。そう考えれば、この時間の海が寂しいのも当然のことだ。