あなたとホワイトウェディングを夢みて
(ホテルを探すか……)
一先ずは現地に詳しいホテルか観光案内所で若い女性が立ち寄りそうな場所を訪ねたが早そうだ。それに、ポスターの撮影場所なのかも聞き出した方が良さそうだ。
郁未は砂浜から階段を上り駐車場へ戻って行く。
すると、砂浜へと下りて行く女性とすれ違う。連れのいないその女性は一人ポツンと歩いて行くが、彼女もまた鍔の広い帽子を深く被っている上に、俯き加減で顔を見ることは出来ない。クリーム色の帽子に、同色のツーピース姿で、ウエストの引き締まった素晴らしいスタイルに思わず郁未の視線が彼女の後ろ姿に惹き付けられた。
(ナイスバディだ。それに上品な装いだ。どこかの令嬢だろうか?)
セレブで美女たちとの交際に慣れていた郁未なのについすれ違いざまに女性を見てしまった。
(留美に似合いそうもない格好だな)
ジャージ姿が印象的で、高級服を着熟せる留美の姿など想像もつかない。けれど、女性の一人旅ならば留美の可能性も考えられる、その女性の左手へ目をやった。
(指輪はしていない…… 当然だな。あの格好は留美には違いすぎる)
仕事でもプライベートでも、贅沢に慣れていない留美には手の届きそうにない上質な服だ。それに、郁未が贈った指輪を嬉しそうに見つめていた留美が左手から婚約指輪を外したとは思えない。
一人旅に出たのがマリッジブルーの可能性があっても、自分を嫌って行方を眩ませたとは考えにくい。そう信じる郁未は急いで車に乗った。
エンジン音を響かせると少々荒っぽく車をバックさせ向きを変えると道路へと走り去って行った。
「荒々しい運転ね。こんな静かなところに似合わないスポーツカーだわ」
女性は振り返り、郁未の真紅の車を横目で見た。
深く帽子を被っていた彼女は浜風の強さに左手で掴むと、帽子を脱いだ。
「まさか……ね。今の、専務じゃないわよね?」
郁未とすれ違った女性は留美だった。
そして、帽子を胸に抱き締めると婚約指輪を外した左手を目の前へ翳す。