あなたとホワイトウェディングを夢みて
まさに図星で、しかも、最悪な終わり方をしてしまった、留美との恋。
そんなタイミングでこの電話とは、俊夫が悪魔の使いにさえ思える。
すると、また俊夫からの着信音が鳴る。
「……」
電話を投げつけたい気分だが、あの父親のことだ、きっと電話に出るまで何度でもかけてくると予想できる。だから、郁未は渋々と通話ボタンを押した。だが、耳障りな声は極力遠ざけたい気分だけに、電話はベッドの上に放り投げた。
「郁未? おーい!」
通話状態なのにうんともすんとも言わない郁未に、俊夫が電話口で何度も叫ぶ。その声の大きさの鬱陶しいこと。郁未は仕方なく電話を手に取る。
しかし、会話の気分になれない郁未は無言のままだ。
「おい、その様子じゃ本当に逃げられたらしいな。そんな場合はどうなるか覚悟はできているんだろう?」
今更もったい付けた言い方をされても、郁未は聞く耳持たない。今は留美に去られた辛さで他は何も考えられない。
「専務として仕事を続けたいなら、来春、例の女性と婚儀を挙げろ」
「……」
「私の後継者として周囲に認められたいならば、私に従え。いいな」
「いやです。留美意外の女と添い遂げるなど、俺にはできない」
後継者としての立場を確保したいのはやまやまだが、それ以上に留美を失いたくない。郁未は最後の最後まで俊夫に逆らう。
しかし、返ってきた答えは実に冷酷なものだった。
「佐伯留美に逃げられたのだろう。お前は私との賭けに負けたんだ。私の言葉に従えないのなら後継者どころか専務の肩書きも社会的地位も失ってしまうのだぞ」
「それでも留美を諦めたくないんです」
自分の力だけではどうにもできないことがあると初めて知った。
郁未は、留美の心を取り戻したいと俊夫にもう一度猶予が欲しいと懇願する。