あなたとホワイトウェディングを夢みて
第十章 ホワイトウェディングをあなたと

 実家へ戻って数日が経過し、有給休暇をすべて使い果たそうと会社へ申告した留美はそれを受理され、のほほんとした生活を送っていた。
 郁未に騙されたと知ったあの日から、郁未との数少ない幸せな日々が脳裏に浮かび苦悩する毎日を過ごしていた。

「留美、お父さんが話があるそうよ。座敷へ行きなさい」
「座敷へ?」
「ほら、早くなさい」
「えー、今すぐなの?」

 億劫そうに言う留美。
 八畳和室の茶の間、部屋の中央にどんと構える父愛用の円形ちゃぶ台に突っ伏して、怠惰な生活を送り続ける留美はテレビのチャンネルを変えては時間を潰す。

「そんなぐうたら生活してたら激太りになるわよ」
「別にいいわよ。太ったからって気にしないわ」

 やる気のない留美は何も手に付かず、だらだらとした生活を続けていた。賭けの対象にされたショックはもとより、郁未との恋が終わってしまったことへの悲しみが辛くて、一日中でも引きこもっていたい気分だ。
 なのに、厳格な父親に呼び出されるのは今の生活態度を戒める為なのか、そう思えばますます気分が乗らない留美は大きな溜め息を吐いて、重々しい身体を起こし渋々父親の待つ座敷へと行く。

「こっちに座りなさい」

 父親の威厳を具現化したような座敷で、来訪者が気後れするような威圧的なオーラを漂わせ、部屋の中央にある座卓の前に姿勢を正し、正座する父親がいる。

「……」

 完全に雰囲気にのまれる留美は言葉を失う。
 もともと幼い頃から座敷は苦手だった。実家へ戻ってもここへは極力寄りつかなかったが、今日は避けられそうにない。父親と対峙する今この瞬間、留美は逃げ出したい思いに駆られながら、言われるままに座卓を挟み父親の真正面に腰を下ろした。

「これを見なさい」
「……」

 父親が見合い写真らしきA4サイズの台紙を差し出した。

(これって、見合い写真?)

 留美が台紙の表紙をジッと見ていると、更に父親は話を続ける。

「父さんの親友を知っているだろう? 毎年ワインを送ってくれている人だ」

 その言葉の先を聞きたくない留美は台紙を父親の前に突き返した。

< 271 / 300 >

この作品をシェア

pagetop