あなたとホワイトウェディングを夢みて

「少しでも油断すると女は誤解する。その隙を作らないことくらい心がけていますよ」

 当然の事のように言う郁未。
 それには頷く俊夫だが厳しい目をする。

「これまで何人の女と寝た? お前のプレイボーイぶりは得意先でも随分と評判になっている」

 私生活と得意先は無関係と考えている郁未には、毎回の事、鬱陶しい会話だ。しかし、将来を不安視した俊夫は、後継者の郁未には世間での評判を回復させる必要があると感じている。

「今のお前は後継者として後押しができないのだ」

 郁未はこれまで仕事に私情を挟んだ事など一度もない。それなりに業績も上げている。なのに理不尽だと文句を言おうとすると、

「後継者になる為の条件がある。私が決めた女性と来春結婚式を挙げる事だ」
「は?」

 突拍子もない話に郁未は顔面蒼白となる。

「ちょっと待って下さい。俺はまだ二十八だし、そんなに急いで結婚する歳でもない。それに結婚相手は自分で見つけます」

 父親が決めた女など、きっと喜怒哀楽のない日本人形のような女だ。まさしく人生の墓場ではないか。絶対に、この縁談を承諾することは出来い。

「お前に任せていたら後十年は独身を続けるだろう。私の死後に結婚など言語道断だ。第一、未婚のお前では後継者にはできん。身を固め誠実な態度を示さなければお前の信用はないに等しい」

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