あなたとホワイトウェディングを夢みて
他の女性社員に喋る様に話せば良いものを、相手が留美と思うだけで、自分でもぎこちなく唇が痙攣を起こしそうだ。
「部下なのですから敬称は略して頂いて構いませんが?」
留美はいつもの愛想のない表情だが、郁未は留美の機嫌を損ねない様にと笑顔を向ける。
「頼んだ仕事はもう終わったのかい?」
「こちらです。それから、手順書も作成しております。こちらを参考に操作して下さい。では、何かありましたらご連絡下さい。これにて失礼します」
「え……あ?」
微笑みながら話しかける郁未だが、捲し立てる留美に取り付く島もない。そして、留美は資料の上にメディアを置くと、郁未に会釈し部屋から颯爽と出て行った。
「これは不味いぞ」
明らかに留美の態度は郁未を嫌悪している。そんな女にヘラヘラ愛想良くする程度では落とせない。
このままでは『今日は郁未クンの結婚式だよ~』と薔薇の花束抱えてお祝いに駆け付ける俊夫の姿が目に浮かぶ。
「何としてでも俺に惚れさせる」
自分の将来がかかってるだけに、目を輝かせた郁未は闘志を湧かせていた。
郁未がそんな状態に陥っているとは露知らず、専務室を出て行った留美は、気分良く情報処理課へと戻って行く。
郁未のデスクに置いてきた資料は殆ど嫌がらせ同然の手順書だ。
郁未は単純な表計算の計算式を依頼したが、それは複雑なプログラムが組まれていた。