あなたとホワイトウェディングを夢みて
世間一般ではコーヒーは眠気覚まし。しかし、留美の場合は少し様子が違う。
勤務中は全神経がパソコンへ向かっている為に、コーヒーを飲んでも睡魔に襲われることは殆どない。
けれど一旦仕事から離れると、嘘の様に眠気で意識が朦朧とする。まるでコーヒーは睡眠薬。
留美が眠りかけていると、そこへ課長のデスクにある内線電話の呼び出し音が鳴り響く。
課長は咳払いすると姿勢を正し、受話器を取るとゆっくり持ち上げた。そして、いつも通りの畏まった返事をするが、電話を受けた次の瞬間顔色を変える。
「こ、これは……」
電話の声を聞いた課長は、何度もペコペコと頭を下げて応えている。
「わ、分かりました。すぐに向かわせます」
額から汗を滲ませ、青白い顔をする課長の様子から、田中は電話の主が専務ではと女の勘が働く。
「は、では……その様に」
課長の態度と情報処理課の今の業務内容から察するに、専務以外に電話の相手は考えられなかった。
田中が横目で留美の様子をうかがうと、留美はスヤスヤと心地良さそうにお昼寝中だ。
これはチャンスと思った田中が、課長のデスクの前まで闊歩し自信満々で喋る。
「課長、そのご用件は私が承ります。穏便に済ませて参りますので、どうかご安心を」