あなたとホワイトウェディングを夢みて

「そうだな。佐伯君ではあの専務の仕事は荷が重いだろう。田中君、君に任せたよ」
「はい、お任せください」

 単純な表計算でさえ満足に仕上げられなかったとして、郁未は上司である課長を叱りつけ、再度留美に専務室へ来る様にと指示を出した。
 しかし、何を血迷ったか、課長は仕事を無事に遂行できると思い込んで田中を送りやったのだ。けれど、郁未が留美を呼び出したのは、仕事の為だけではない。
 俊夫との賭けが絡むから呼び出したのだ。
 案の定、専務室へ行ったはずの田中が十分も経たない内に青ざめて戻って来た。
 それを見た課長が、田中でも対処できない程に留美は専務の怒りを買ったのかと、自分が処罰を受けるのではとパニックを起こしかける。
 すると、田中の後に続いて郁未が情報処理課へと入って来た。

「私は、このデータを作成した本人を、専務室へ寄越す様にと言ったはずだが?」

 いきなり専務の郁未が登場したことで情報処理課は一気に重々しい空気が漂う。
 そして、蛇に睨まれた蛙の様に課長はオロオロするばかり。脂汗を流す課長はスーツの上着ポケットからハンカチを取り出し、必死になって額を拭いている。
 そんな課長には用などない。郁未が呼び出したのは留美なのだが、その肝心な本人はデスクに伏せて眠っていた。
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