あなたとホワイトウェディングを夢みて
体調でも崩したのかと郁未の顔を凝視すると、顔を強張らせた郁未がニッコリ微笑む。
(単なる営業スマイルだ。これも試練と思えば容易いことだ)
留美の機嫌を取ろうと、郁未なりに努力していた。しかし、慣れない相手への微笑みは、顔面を引き攣らせ、まるで頬が痙攣した様な異様なモノに見える。
よほど郁未の怒りを買ったかと、流石の留美も緊張が走る。
「あの、申し訳ありませんでした」
ここは素直に謝罪を入れた方が気味が悪い態度から逃れられると感じて、留美は深く頭を下げた。
なのに、デスクに座る郁未はいつになく大人しく、まだ頬を引き攣らせ笑顔を向けている。
「いや、私も無理言って悪かった……よ。相当、疲れさせたんだね」
「専務、あの……昼に何か悪い物でも食べました?」
あの傲慢な郁未が怒鳴るどころか、逆に謝罪した。それもかなり苦痛な表情をしながら。
「昼は美味しいランチを頂いたよ。君もランチは楽しかったかい?」
予想だにしなかったセリフが返って来て、思わず留美は後退りをしてしまった。
郁未の心にもないセリフが恐怖となって留美に突き刺さる。