あなたとホワイトウェディングを夢みて
「せ、専務、休日返上してでもデータは仕上げますから」
それだけ頑張るから恐怖の笑顔を向けないで欲しいと、留美は頭を思いっきり下げて懇願した。けれど、休日返上を条件にしなければならないほどに専務の怒りを買ったのかと、留美の唇が震える。
やはり、やり過ぎてしまったと後悔し、急いで専務室から出て行こうとする。
しかし、留美より早くドアの所へ駆けて行った郁未にドアを塞がれる。
「待て、データはどうでもいい!」
郁未の予想外の言動に留美が驚きで目を見開く。
出て行こうにも郁未が立ちはだかっていては出て行けない。
「やり直して来ますから」
「いや、それよりも……」
ビクついた表情で見上げた留美の目が微かに潤んでいるように見えた。郁未は、ハッとして留美から顔を逸らすが、ドアの前からは一歩も動かない。
「あの……専務?」
謝罪を受け入れられない程に怒らせたと思い込んだ留美はもう一度頭を下げた。
完全に誤解を与えたと悟った郁未は、『データならもう良いんだ』と言うが、それ以上の口説き文句が出てこない。
今のシチュエーションならば、留美の顔を引き寄せて軽くキスでもすれば、男慣れしていない女なら直ぐに靡くだろうと、頭では分かっているが体が動かない。
これまでの美しく着飾った女性達とまるで正反対の留美を前にして、郁未の手が止まる。
「専務?」