あなたとホワイトウェディングを夢みて
今度こそと、思い切って留美の顔を見るが、見上げる留美の顔から苛立ちが見えた。さっきまでの純情そうな表情とは打って変わって、いつもの凜々しい瞳の留美だ。
「今日中にデータを作り直しますから、それで十分でしょ?」
留美の言葉に圧倒された郁未は、つい横へズレて留美に道を空けてしまった。
すると留美は急いでドアノブを掴んで回し、ドアを開けて廊下へと出て行く。
「あ、佐伯……」
呼び止める間もなく、留美はエレベーターホールへ駆けて行った。
エレベーターの前までやって来た留美は急いでボタンを押す。慌てたからなのか胸の鼓動がドキドキと激しくなり、両手を胸に当てて鎮める。
しかし、郁未にドアを遮られるとは思わず気が動転した留美は落ち着かない。それに、間近に迫る郁未からほんのり漂う甘い香りが留美の思考回路を鈍らせてしまった。
(あれって男性特有の香り? アフターシェーブローションと言うもの?)
男性特有の香りなど知らない留美だが、郁未から香る匂いが鼻腔を突くと、留美は変な気分になる。
これまで感じた事のない甘酸っぱい感覚に、胸の鼓動は静まる様子がない。
情報処理課へ戻った留美は、ソワソワして作業が捗らず、既に出来上がっているデータをメディアに複製するだけの作業に午後の残りの時間を費やしてしまった。